漢方治療について
本邦では漢方治療は様々な考え方に基づき医師や薬剤師の裁量で行われています。
当院では伝統的漢方診察と漢方診断を重視します。伝統的な漢方とは、古典を重視して数千年に及ぶ経験と修正を積み重ねて作り上げられた医療体系です。
本邦では漢方は医師や薬剤師が扱い、鍼灸は鍼灸師が行うというように分断されており、両者を使いこなす治療家は極少数です。
伝統的な漢方診断が漢方と鍼灸治療を結ぶ梯になり、当院の特徴である漢方と鍼灸を組み合わせた総合的な東洋医学的治療を行うことを可能にします。
また、漢方は現代医学的にも見直され、西洋医にも使いやすいように体系化されつつあります。当院でも現代にふさわしい科学的な漢方治療も積極的に取り入れます。
漢方薬の薬効を現代医学的に捉え、西洋薬との併用も許容して治療効果の向上を目指します。鍼灸についても明治鍼灸大学等で実践されてきた現代医学に基づく鍼灸治療を随所に取り入れます。
東洋医学では様々な身体所見を重視します
問診、腹部診察、脈診、舌診、経絡のバランス診などを駆使して、体のサインを的確にとらえます。治療に対する患者さんの心や体の反応を評価して治療効果の判定を行い、次回の治療へと繋げていきます。
季節や環境に合わせた治療方針を選択することも重要です
寒い時には冷えの症状が強くなり、暑い時には消耗性の症状が現れ、湿気の多い季節には体内にたまる余分な水分が様々な症状を引き起こします。温める治療、冷ます治療、余分な水分を除く治療などを、症状を適切に評価した上で選択していきます。このように当院での東洋医学的治療は、患者さんの体内・体外環境が変化することに柔軟に対応しながら、その時々に最適な治療法を提供します。
東洋医学の魅力は、生体が持つ病気に対する耐性や反発力を刺激して、定常状態(治癒)に導くところにあると思います。予防医学的にも優れた効果があります。
当院では東洋医学を駆使して、皆様の健康維持のお手伝いをいたします。
鍼灸について
鍼灸治療は肩こり、腰痛、神経痛などにくらいしか効果がないと思われがちですが、他にも多くの症状や疾患に効果があります。
WHO(世界保健機関)において鍼灸療法の適応とされた疾患
神経系疾患
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー運動器系疾患
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
循環器系疾患
心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ
呼吸器系疾患
気管支炎・喘息・風邪および予防
消化器系疾患
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
代謝内分泌系疾患
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血
生殖、泌尿器系疾患
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎
婦人科系疾患
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊
耳鼻咽喉科系疾患
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎
眼科系疾患
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい
小児科疾患
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善
上記疾患のうち「神経痛・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腰痛」は、わが国においては、鍼灸の健康保険の適用が認められています。
鍼灸の効果
鍼灸の効果ですが、体表面の特定の部位(=ツボ)を鍼や灸で刺激すると、それに対する生体の反応として、
- 体性ー内臓反射
- 内在性鎮痛機構の賦活
- 免疫系の賦活
等が起こることが現代医学的に証明されています。
体性-内臓反射について
鍼灸は自律神経が支配する胃、腸、膀胱などの内臓や血圧などに対しても、中枢神経系や脊髄を介して反射性に機能を調整する作用があります。例えば古来、足にあるツボの足三里(あしさんり)への灸刺激は胃腸の調子を整える効果があるとされてきましたが、これは体性―内臓反射を介しての調節機構であることがヒトや動物の実験で明らかにされました。
内在性鎮痛機構の賦活について
鍼と灸は体表に分布する感覚神経を刺激し、中枢神経系を介して作用すると考えられています。鍼灸は体表の主に細い感覚神経を刺激し、中枢神経内に天然のモルヒネのような物質、いわゆる「内因性オピオイド」を放出させ、痛みを抑制する機構(内在性鎮痛機構)を賦活し、脊髄レベルで痛みを伝える神経の興奮をブロックします。また、同時に鍼刺激は体表の太い感覚神経をも刺激し、脊髄で痛みを反射性にブロックする機構を作動させます。このように鍼の鎮痛効果は、中枢からの抑制系と脊髄の抑制系の2重で痛みをブロックしますので、大変よく効きます。
また、筋肉の深さまで鍼を刺すと、神経刺激を介して血行を改善させ、痛みの原因となっている発痛物質を洗い流してくれます。
免疫系の賦活について
例えば生体防御を司るNK細胞の働きが、鍼や灸で活発になるといわれています。作用機序は現在解明中ですが、再現性のある事象であり、明らかな鍼灸の効果として知られています。
他にも血液循環改善効果、過剰な末梢神経刺激の遮断効果なども確認されています。このような現代医学的鍼灸の業績から、これまで古典で言及されてきた鍼灸の治療効果を科学的な視点から解釈出来るようになりました。
日本における鍼灸と当院の鍼灸治療について
本邦の鍼灸には、現代医学的鍼灸、中医学的鍼灸、経絡治療(日本独自)という大きく3つの枠組みがあり、実臨床ではこれらを組み合わせて実践することが多いです。
- 現代医学的鍼灸
現代医学的鍼灸は、上記で示したように、鍼灸の治療効果を生理学・生化学的に解明して、西洋医学的な使用を目指したものです。
-
中医学的鍼灸
中医学の特徴のひとつは、「整体観」です。人体は外部環境(気候、飲食など)や内部環境(ストレスなど)からさまざまな影響を受けています。また、人体それ自身も自然とバランスを取りながら、内部でさまざまな部位が影響し合っています。問診を重視し、舌診+脈診を組み合わせます。当院では経絡テストも組み合わせ、現代医学の病態生理も取り入れながら、合理的な中医学的鍼灸治療を行います。
-
経絡治療
経絡治療(日本独自)は、多様な体表面の反応や変化を状況毎に捉え、治療に使用できる反応や変化を技術論として再編成したものです。その中で、医療機器の何もなく、自分の感触にしか頼れなかった時代の古代の治療家の身体・体表観察眼を大いに重視(古典を重視)し、現代医学で解明されている事情との整合性を吟味して発展させる方向性が生まれています。脈診を重視します。
当院では中医学の考え方を軸に、現代の医療にふさわしい鍼灸治療をご提供します。
鍼灸と漢方(薬)の立ち位置について
次に、本邦での鍼灸と漢方(薬)の立ち位置についてです。
両者を共に使う医師や治療家が少ないのはなぜなのでしょう。両者は共通の考え方から発展し、昔の治療家は両者を使いこなしていました。本邦では、漢方薬は医師と薬剤師、鍼灸は鍼灸師が業とするよう分断されています。
東洋医学を学ぶ者は、近代までは『素問』、『霊枢』、『難経』、『傷寒雑病論』、『神農本草経』などを読んで勉強し、次いで『脈経』、『鍼灸甲乙経』、『太平恵民和剤局方』や金元医学の四大大家の本を読んだりしていました。この頃は鍼灸と漢方の診断・治療の拠り所とする古典は共通するものが多かったのです。 江戸中期、日本漢方の主流派である古方派による『素問』、『難経』の排斥運動があり、鍼灸が拠り所とする陰陽五行説の否定に繋がりました。これ以後、鍼灸と漢方薬の理論的体系が交わることが少なくなりました。本邦の薬法では伝統的な四診法から、特徴的な病証の組み合わせの探索にとって代わり、『傷寒論』の条文も薬法に解釈しやすいもののみが採用されています。また、江戸期の盲人政策や明治期の西洋医学の導入による医制の施行により、鍼灸と薬法の間の分断を促進させました。
共に効果のある鍼灸と薬法を、共通の理論で再統合しようという動きは近年少しずつ見られています。『難経』の陰陽五行論を基盤とした『四気』『五味』気味論を採用することで、気味と臓腑経絡を組み合わせ、鍼灸と薬法の並列化が可能になるかもしれません。
当院では鍼灸と漢方薬の併用も積極的に行いたいと考えております。
- 治療内容
- 鍼や電気による経穴(ツボ)への刺激を行います。手技療法も併用します。
- 費用
- 1時間の治療で3,000円、30分1,650円、学生さん1,000円
- 治療期間・回数
- 1カ月~半年(週1~2回の治療の場合)